ベトナム国家大学ハノイ校日越大学
地域研究プログラム日本研究専攻
修士学位論文
在日外国人労働者に対する日本語指導研修の改善
―ベトナム人技能実習生の日本語習得の現状を事例として―
地域研究プログラムコード:8310604.01QTD
指導教員
宮崎里司
教授・博士
学位申請者
PHAN XUAN DUONG
(学生番号:18110002)
ハノイ、2020 年
論文要旨
近年、日本に滞在する外国人労働者の増加を背景に、彼らへの日本語教育が喫緊の課題となっ
ている。日本で生活や仕事をする外国人労働者にとって、日本語能力は不可欠である。本研究は、
日本における外国人労働者のなかでも特に急増するベトナム人技能実習生の日本語学習に着目す
るものである。
2017 年 6 月 6 日、日本とベトナムとの間の技能実習生の送り出しや受け入れに関する二国間取
決めが締結された。その目的は、技能実習制度を通じて日本からベトナムへの技能等の移転を適
正かつ円滑に行い、国際協力を推進することである。これにより、来日するベトナム人技能実習
生の数は急増し、法務省出入国在留管理庁の 2019 年の統計によると、2019 年 6 月末時点で、日
本に滞在している技能実習生では、ベトナム人技能実習生数が最も多く、全体の 51.4%を占めて
いる。しかし、その増加に伴い、ベトナム人技能実習生に関わる問題も発生している。日本語の
能力が低いことによるコミュニケーション不足が原因となり、様々な犯罪に巻き込まれたり、彼
らがその当事者となるケースも増えている。そのため、ベトナム人技能実習生の日本語習得は本
人たちにとって喫緊な課題の一つである。
現在、技能実習生の来日前後の日本語教育は、送り出し機関および監理団体が担っている。す
なわち、送り出し機関と監理団体が技能実習生の日本語習得に最も大きな影響を与えると言える。
そこで、本研究では、ベトナム人技能実習生の日本語学習に対する送り出し機関と監理団体の役
割に着目する。また、技能実習生の日本語習得は、彼らの帰国後の仕事や生活にも影響を与える。
技能実習生にとっては、習得した技能に加えて、日本語能力も将来のキャリアパスにつながるの
で、本研究では、ベトナム人技能実習生の日本語学習だけではなく、帰国後の彼らのキャリア形
成に対する送り出し機関と監理団体の役割にも注目する。本研究の特徴は、技能実習生の日本語
学習のアーティキュレーション(ベトナムの送り出し機関、日本の監理団体、そして技能実習終
了後の連続性)に着目したことである。
i
目次
第 1 章 序論 ...................................................................... 1
1.1.研究の背景 ................................................................. 1
1.2.問題意識 ................................................................... 4
1.3.本研究の目的 ............................................................... 6
1.4.本研究の意義 ............................................................... 6
1.5.本論文の構成 ............................................................... 7
第 2 章 先行研究および技能実習生の現状 ............................................ 9
2.1.用語の定義 ................................................................. 9
2.2.技能実習制度の変遷 ........................................................ 11
2.3.ベトナム人技能実習生の送り出しの現状 ...................................... 14
2.4.技能実習生の日本語教育に関する先行研究 .................................... 16
2.5.ベトナム人向けの日本語教育の現状 .......................................... 19
第 3 章 ベトナム人技能実習生の日本語学習の現状 ................................... 21
3.1.ベトナム人技能実習生の来日前の日本語学習 .................................. 22
3.1.1.送り出し機関の役割 .................................................... 22
3.1.2.送り出し機関の授業の内容 .............................................. 25
3.2.ベトナム人技能実習生の来日後の日本語学習 .................................. 30
3.2.1.監理団体の役割 ........................................................ 30
3.2.2.監理団体の授業の内容 .................................................. 32
第 4 章 ベトナム人技能実習生に対する調査 ......................................... 37
4.1.調査の概要 ................................................................ 37
4.2.予備調査 .................................................................. 37
4.3.本調査の方法 .............................................................. 40
ii
4.4.本調査の結果と分析 ........................................................ 41
4.4.1.アンケート調査 ........................................................ 41
4.4.2.グループインタビュー .................................................. 49
4.4.3.半構造化インタビュー .................................................. 54
第 5 章 結論 ..................................................................... 59
5.1.本研究のまとめ ............................................................ 59
5.1.1.リサーチクエスチョン 1 の答え .......................................... 59
5.1.2.リサーチクエスチョン 2 の答え .......................................... 60
5.1.3.リサーチクエスチョン 3 の答え .......................................... 62
5.2.ベトナム人技能実習生の日本語学習に関する提言 .............................. 63
5.3.今後の課題 ................................................................ 64
参考文献 ......................................................................... 65
謝辞 ............................................................................. 70
付録 ............................................................................. 71
iii
略語の一覧
JITCO:Japan International Trainee & Skilled Worker Cooperation Organization(公益財団
法人国際研修協力機構)
OTIT:Organization for Technical Intern Training(外国人技能実習機構)
JICA:Japan International Cooperation Agency(国際協力機構)
AOTS:Association for Overseas Technical Scholarship(海外産業人材育成協会)
VAMAS:Vietnam Association of Manpower Supply(ベトナム海外労働者派遣協会)
iv
表の一覧
<表>
表2-1:国別の送り出し機関の数 ................................................ 15
表2-2:技能実習生の送り出しの流れ ............................................ 16
表3-1:技能実習生の一日の生活 ................................................ 26
表3-2:送り出し機関 Y のクラスの時間割 ........................................ 27
表3-3:監理団体の 1 日のスケジュール .......................................... 31
v
図の一覧
図1-1:在留外国人の構成比(在留資格別) ...................................... 1
図1-2:技能実習生のの構成比(国籍・地域別) .................................. 3
図3-1:クラスの成績評価 ...................................................... 23
図3-2:教師と実習生の評価 .................................................... 23
図3-3:報連相の説明図 ........................................................ 24
図3-4:日本文化に関する情報 .................................................. 25
図3-5:技能実習生の一日の生活 ................................................ 26
図3-6:送り出し機関 Y のクラスの時間割 ........................................ 28
図3-7:講習施設の教室 ........................................................ 32
図3-8:夕食と入浴のスケジュール .............................................. 32
図3-9:唱和する内容 .......................................................... 33
図3-10:送り出し機関からの漢字表 ............................................ 36
図4-1:技能実習終後の日本語レベルの希望 ...................................... 38
図4-2:技能実習後の獲得したいもの(複数回答) ................................ 38
図4-3:毎日の自習時間 ........................................................ 39
図4-4:自習の教材 ............................................................ 39
図4-5:協力者の性別 .......................................................... 41
図4-6:協力者の年齢 .......................................................... 42
図4-7:協力者の職種 .......................................................... 42
図4-8:協力者の出身地 ........................................................ 42
図4-9:調査時点までの日本語学習の時間 ........................................ 43
vi
図4-10:現在の日本語レベル .................................................. 43
図4-11:技能実習終後の日本語レベルの希望 .................................... 43
図4-12:日本語の自習時間 .................................................... 44
図4-13:日本語学習の難しさについての意識 .................................... 45
図4-14:仕事に対する自信 .................................................... 46
図4-15:仕事に対する自信がない理由(複数回答) .............................. 46
図4-16:日本語学習の目的 .................................................... 47
図4-17:技能実習の目的 ...................................................... 48
図4-18:技能実習後に希望するキャリア ........................................ 48
図5-1:日本語学習とキャリアパスの関係 ........................................ 62
vii
第1章
序論
1.1.研究の背景
近年、日本では外国人の数が急速に増加している。法務省の統計1によると、2019 年 6 月末の
時点で、在留外国人数は約 2,829,416 人で、前年末に比べ 98,323 人(3.6%)増加し、過去最高
となった。在留資格別では、永住権を持つ者が 783,513 人で最も多く、第 2 位に技能実習が
367,709 人、次いで、留学、特別永住者がそれぞれ 336,847 人、317,849 人と続いている。とり
わけ、2017 年末と比べると、技能実習の在留資格を持つ者が第 3 位から第 2 位になり、日本に滞
在している外国人の総数の 13%を占めている。すなわち、中長期在留者では、技能実習生の数が
最も多いということである。このような外国人の増加を背景にして、彼らに関わる日本語教育を
はじめとする諸課題の対応が急務である。とりわけ、急増している外国人技能実習生に対する日
本語指導研修などが注目されている。
図1-1 在留外国人の構成比(在留資格別)
(出典:法務省出入国在留管理庁(2019)「令和元年 6 月末現在における在留外国人数について」)
1
法 務 省 出 入 国 在 留 管 理 庁 ( 2019 ) 「 令 和 元 年 6 月 末 現 在 に お け る 在 留 外 国 人 数 に つ い て 」
年 5
月 10 日)
1
さて、技能実習生とは誰を指すのか。1991 年に公益財団法人国際研修協力機構(以下、JITCO)
が法務省、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省の五省共管により設立された。1993 年
に、JITCO は外国人技能実習制度(以下、技能実習制度とする)を開始、海外からの技能実習生
の受け入れが始まった。出入国在留管理庁・厚生労働省編(2019)の「技能実習制度運用要領~
関係者の皆さまへ~」2によると、技能実習制度は「我が国で開発され培われた技能、技術又は知
識の開発途上国等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力する
ことを目的とする制度」と定義されている。より具体的には、海外の若手労働者が日本の企業に
おいて技能実習生として産業技術や職業技能を習得し、母国に帰国後、その習得した技能等を通
じて経済や産業の発展のために役立ててもらう制度である。すなわち、日本政府によると、技能
実習生の来日の目的は就労ではなく、技能を習得することである。しかし、技能習得のためには
実際に日本の企業で仕事をすることから、日本語教育の面からみると、技能実習生の日本語は外
国人労働者の労働現場の日本語と同様ではないかと考える。したがって、本研究では技能実習生
への日本語教育を外国人労働者への日本語教育のひとつの種類として捉える。
技能実習制度に基づき、日本では中国、フィリピン、インドネシアなどから技能実習生を受け
入れてきたが、近年ではベトナムからの受け入れが急速に増加している。法務省3によると、2019
年 6 月末の時点で、ベトナム人技能実習生の割合は技能実習生全体のおよそ半数を超え、19 万人
近くになった。日本とベトナムの関係の緊密化にしたがって、ベトナム側の送り出し機関から日
本側の受け入れ企業に送られる技能実習生の数が増加していると言える。
2
出入国在留管理庁・厚生労働省編(2019)「技能実習制度運用要領~関係者の皆さまへ~」、p.2
年 3 月 6 日)
3
法 務 省 出 入 国 在 留 管 理 庁 ( 2019 ) 「 令 和 元 年 6 月 末 現 在 に お け る 在 留 外 国 人 数 に つ い て 」
年 5
月 10 日)
2
2.9%
中国
6.0%
韓国
0.1%
8.4%
22.1%
ベトナム
フィリピン
9.1%
ネパール
台湾
インドネシア
タイ
51.4%
その他
図1-2 技能実習生の構成比(国籍・地域別)
(出典:法務省出入国在留管理庁(2019)「令和元年 6 月末現在における在留外国人数について」)
実習対象となる職種や作業は、農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属などで
ある。これらの職業の技能を身につけるため、ある程度の日本語能力の必要があることはいうま
でもない。そのため、受け入れ企業に配属される前に、技能実習生は日本語の研修を受ける義務
がある。入国前の日本語研修を行うのは送り出し機関で、入国後は日本の監理団体の講習施設で
ある。合計時間は 320 時間と定められている。JITCO によると、講習の内容は、日本語、日本で
の生活一般に関する知識、入管法や労働基準法などの技能実習生の法的保護に必要な情報、円滑
な技能等の修得に資する知識である。しかし、実際には、上記の内容を限られた講習時間内でカ
バーするのは難しく、日本語だけでも十分に学習できない技能実習生もいるという現状である。
以上のような状況と尐子高齢化による労働不足という日本社会の背景から、日本において外国
人労働者や技能実習生などは非常に重要な存在となっていると言えるだろう。とりわけ、近年急
増している技能実習生が日本経済の発展に不可欠だと考えられる。そのため、技能実習生に関す
る政策がさらに議論される必要がある。それらの政策の中で、技能実習生にとって日本で仕事や
生活を円滑に進めるための日本語能力が重要であると考えられている(䆌・浅野、2001a;
2001b)。日本に滞在している期間だけでなく、技能実習生の帰国後のキャリアパスを考えるう
えでも、日本語能力も非常に重要な役割を持つ可能性があると考えられる。したがって、技能実
習制度または日本語教育の分野では、技能実習生に対する日本語指導研修が重要な課題となって
いると言える。
3
1.2.問題意識
前述のように、技能実習生に対する日本語学習という課題を述べていた。但し、実際には、技
能実習生の日本語学習は非常に困難な状況にある。現在、筆者はベトナム人技能実習生を対象と
して日本語のオンライン授業を実施している。そして、その授業を通じて、技能実習生が直面し
ている日本語教育の現状に触れ、彼らが様々な問題を抱えていることがわかった。例えば、入国
後の講習においては、受け入れ機関が日本語を勉強する機会を与えず、日本語能力の不足により
仕事や生活の面で彼らは様々な困難を抱えている。多くの場合は、技能実習期間で日本語を勉強
する時間がなく、日本語能力が徐々に下がっている。そのため、技能も十分に学ぶことができな
ければ、日本語も話せないため、将来について不安を抱え、ベトナムに帰国後も社会に貢献でき
ない。厚生労働省の 2017 年の「帰国技能実習生フォローアップ調査」4によると、帰国後の就職
状況について、「雇用されて働いている(22.0%)」、「雇用されて働くことが決まっている
(13.7%)」または「起業している(16.3%)」と回答した人は 52.0%となっている。すなわち、
半分近くの技能実習生は仕事を探しているあるいは何もしていないなどの状況が分かる。仕事を
している回答者について、仕事の内容は「実習と同じ仕事(49.9%」または「実習と同種の仕事
(19.8%)」と答えた人が 49.9%となっている。つまり、仕事をしている元技能実習生の 3 分の
1 の仕事は技能実習と違う仕事であるということが分かった。帰国した技能実習生の就職状況は
かなり深刻の問題ではないかと考えられる。
また、日本語の能力が低いことによるコミュニケーション不足が原因となり、様々な犯罪に巻
き込まれたり、その当事者となるケースも増えている。技能実習生に対する賃金未払いやセクシ
ャルハラスメントなどが生じても、具体的な支援を求めることができない状況もある。そのため、
ベトナム人をはじめ、中国人、フィリピン人などの技能実習生の失踪や自殺などの事件数が増加
している。警察庁によると5、来日外国人犯罪の情勢について、「総検挙状況を在留資格別にみる
と、「短期滞在」、「留学」及び「技能実習」で全体の 50%以上を占めており、そのうち「短期
滞在」及び「技能実習」が増加している」と述べていた。こうした状況が続けば、日本人の間で
4
厚 生 労 働 省 ( 2017 ) 「 帰 国 技 能 実 習 生 フ ォ ロ ー ア ッ プ 調 査 」
年 3 月 3 日)
5
警 察 庁 ( 2019 ) 「 令 和 元 年 上 半 期 に お け る 組 織 犯 罪 の 情 勢 」
/>日:2020 年 3 月 6 日)
4
の外国人のイメージが悪化するだけではなく、外国人の間での日本人のイメージも損なわれる可
能性がある。
しかしながら、技能実習生に対する既存の日本語教育の内容と実施についてはいくつかの問題
点が指摘できる。まず、日本に入国前後、日本語教育の時間が尐ない点である。日本に入国する
前の 1 カ月あるいは 160 時間という限られた時間で日本語を学ぶに過ぎない。そして、入国した
後、政策上で日本語授業の時間が決まっていないことが要因で受け入れ期間は日本語教育を与え
ないこともある。日本語の養成講習の時間は最大 2 カ月あるいは 320 時間になっても、技能実習
生に対してきわめて尐ないと考えられる。技能実習生は技能を学ぶために、簡単な日本語だけで
はなく、専門用語の知識も必要なはずである。アルファベットの文字を母国語として使用してい
るベトナムやフィリピン等のような国からの出身者が漢字を用いる日本語を習得するには 320 時
間の授業では十分ではない。実習に活用できるような専門用語を習得することを目的とした日本
語の授業内容とその時間数を確保する必要がある。
もう一つは、日本語能力の評価基準が明確ではない点である。「技能実習生制度運用要領」で
は、「技能実習生が技能実習の遂行や日常生活に不自由しないレベルに達することができるよう」
6
と記述されているが、具体的に「不自由しないレベル」とはどのようなレベルなのかは明示され
ていない。来日する技能実習生の目的は技能を磨くものなので、技能を習得する能力が必要であ
る。そのため、技能を習得するための日本語能力が十分であるかどうか評価する基準が定められ
るべきである。その基準を満たした者でなければ、技能実習の目的は達成されないと言えるだろ
う。
ここまで、技能実習生の日本語能力と彼らの日本での生活の質との間に密接な関係性を指摘し
た。生活の質だけではなく、日本語能力も仕事や技能習得に直接影響を与える。つまり、技能実
習生の日本語能力が向上するほど、彼らの生活の質や仕事の効果も高くなるだろう。また、技能
実習生にとって、日本語習得は、日本に滞在する期間だけではなく、技能習得して帰国した後に
も重要なものではないかと考える。そのため、技能実習生の日本語習得の現状について分析する
必要がある。その上で、外国人労働者、特に技能実習生のような未熟練労働者がより充実した生
活を送れるようになるために、日本語教育は何を提供できるのかを検討するべきであると考える。
6
出 入国在留管理庁・厚生労働省編( 2019)「技能実習制度運 用要領~関係者の皆さま へ~」
年 3 月 6 日)
5
1.3.本研究の目的
本研究では、技能実習生を対象として、彼らが日本語教育においてどのような問題に直面して
いるのか分析する。より具体的には、ベトナム人技能実習生の日本語学習と帰国後のキャリアパ
スに関する問題を中心に研究する。技能実習生の日本語学習および帰国後のキャリアパスに対し
て、ベトナム側の送り出し機関と日本側の監理団体は、どのような役割を持つべきなのか、日本
に滞在しているベトナム人技能実習生に対するアンケート調査とインタビュー調査から明らかに
する。
上記の研究目的を達成するために、以下の三つのリサーチクエスチョンを設定した。
RQ1:日本語習得について、日本に滞在しているベトナム人技能実習生はどんな問題を抱えて
いるか。
RQ2:ベトナム側の送り出し機関と日本側の監理団体は、技能実習生の日本語学習について、
どのような役割を担うべきか。
RQ3:ベトナム側の送り出し機関と日本側の監理団体は、技能実習生の帰国後のキャリアパス
について、どのような役割を担うべきか。
1.4.本研究の意義
本研究の意義は以下の 2 点である。
第一には、ベトナム人技能実習生の状況を理解し、将来の技能実習生によりふさわしい政策や
制度作りのための提言を行う。本研究では、日本語学習者の中でも、外国人技能実習生に焦点を
当てており、彼らは日本と彼らの母国の架け橋にほかならない。技能実習生に対する政策の改善
を通じて、言語の壁を乗り越え、日本と出身国双方への貢献を後押しすることができると考えて
いる。現在、技能実習生の日本語学習に関しては、ベトナム側の送り出し機関と日本側の監理団
体との連帯はまだ十分に行っていない。お互いの連絡や情報交換がなければ、技能実習生に対す
る日本語教育の効果によくない影響を与えると筆者は考える。すなわち、本研究の特徴は、技能
実習生の日本語習得のアーティキュレーションに注目した点である。
第二には、将来構築すべき言語政策や移民政策に対して、新たな知見を生み、それらの政策に
寄与することが期待できると考える。技能実習生についての研究数がまだ尐ないため、技能実習
生の日本語学習または彼らに対する政策の検討が不十分ではないだろうか。本研究では、技能実
6
習生の日本語学習という技能実習生に関する政策の中の一部について研究し、それを通じて、今
後日本が技能実習生のような外国人向けの言語政策や移民政策を大きな声で扱うときに、役に立
つ研究の一つになると期待する。
1.5.本論文の構成
本論文は、全 5 章から構成される。
第 1 章の「序論」では、「研究の背景」として、外国人技能実習生の急増、技能実習制度の定
義と技能実習生の日本語習得の状況を述べ、日本に滞在している技能実習生の存在の重要性につ
いて述べた。その背景および筆者の経験を踏まえ、「問題意識」として、技能実習生や技能実習
制度に関する諸問題について述べた。また、技能実習生の日本語能力と生活の質や仕事の習得と
の関係性から「本研究の目的」を設定した。具体的には、日本語習得について、日本に滞在して
いるベトナム人技能実習生はどんな問題を抱えているか、技能実習生の日本語能力に対して、ベ
トナム側の送り出し機関と日本側の監理団体は、どのような役割を担うべきか、最後に、技能実
習生の技能実習後のキャリアパスに対して、送り出し機関と監理団体はどのような役割を担うべ
きかという三つのリサーチクエスチョンを設定した。「本研究の意義」では、本研究の技能実習
制度や技能実習生に関する政策における位置づけを述べ、技能実習生の日本語習得のアーティキ
ュレーションの意義について論じた。
第 2 章「技能実習生の現状および先行研究」では、まず、技能実習制度の変遷を四つの段階に
分けて述べた。また、「ベトナム人技能実習生の送り出しの現状」として、技能実習生の出国か
ら帰国までの送り出しの流れを述べた。さらに、本研究の先行研究として、技能実習生の日本語
教育に関する先行研究をまとめた。ベトナム人技能実習生に関する先行研究だけではなく、中国
人技能実習生の日本語学習に関する先行研究も含めて述べた。最後には、ベトナム人技能実習生
に関係がある「ベトナム人向けの日本語教育の現状」をまとめて述べた。
第 3 章「ベトナム人技能実習生の日本語学習の現状」では、技能実習生の日本語学習に大きな
影響を与える送り出し機関と監理団体での日本語指導研修について述べた。具体的には、ベトナ
ム人技能実習生の日本語学習に対する送り出し機関と監理団体の役割や具体的な授業の内容につ
いて述べた。
第 4 章「ベトナム人技能実習生に対する調査」では、本研究で実施した日本に滞在しているベ
トナム人技能実習生を対象にした「アンケート調査」と「グループインタビュー」、技能実習生
7
の管理者を対象にした「半構造化インタビュー」の結果を述べた。その調査結果を分析し、考察
を行った。
第 5 章「結論」では、三つのリサーチクエスチョンの答えを述べた。さらに、調査結果とリサ
ーチクエスチョンの答えに基づいて、ベトナム人技能実習生の日本語学習に関する提言をいくつ
か行った。最後には、今後の課題の 2 点を述べた。
8
第2章
先行研究および技能実習生の現状
2.1.用語の定義
ここでは、本研究における「技能実習生」、「送り出し機関」、「監理団体」、「受け入れ企
業」の四つの用語の定義について述べる。
技能実習生
第 1 章の「研究の背景」で述べたように、「技能実習生」は技能実習制度で海外から来日する
人である。「技能実習生」には、「企業単独型技能実習生」と「団体監理型技能実習生」の二つ
の種類がある。JITCO7によると、「企業単独型技能実習生」は「日本の企業等(実習実施者)が
海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式」の技能実
習生であり、「団体監理型技能実習生」は「事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体
(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式」
の技能実習生である。「企業単独型技能実習生」の在留資格は「技能実習第 1 号イ」、「技能実
習第 2 号イ」、「技能実習第 3 号イ」で、「団体監理型技能実習生」は「技能実習第 1 号ロ」、
「技能実習第 2 号ロ」、「技能実習第 3 号ロ」である。「団体監理型技能実習生」のほうが圧倒
的に多く、法務省8によると、2019 年 6 月末の時点で、「団体監理型技能実習生」の数は 357,774
人であり、技能実習生の全体の 97.3%を占める。そのため、本研究で扱う「技能実習生」は「団
体監理型技能実習生」である。
送り出し機関
「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、技能実習法)
の第二十三条第二項第六号によると、外国の送り出し機関は「団体監理型技能実習生になろうと
する者からの団体監理型技能実習に係る求職の申込みを適切に本邦の監理団体に取り次ぐことが
できる者として主務省令で定める要件に適合するもの」である。それらの要件は、「団体監理型
技能実習生の本邦への送出に関する事業を行う事業所が所在する国又は地域の公的機関から団体
7
「技能実習生受入れの方式」 年 5 月
10 日)
8
法 務 省 出 入 国 在 留 管 理 庁 ( 2019 ) 「 令 和 元 年 6 月 末 現 在 に お け る 在 留 外 国 人 数 に つ い て 」
年 5
月 10 日)
9
監理型技能実習の申込みを適切に本邦の監理団体に取り次ぐことができるものとして推薦を受け
ていること」や「制度の趣旨を理解して技能実習を行おうとする者のみを適切に選定し、本邦へ
の送出を行うこととしていること」などであり、技能実習法の施行規則の第二十五条で定められ
ている。本研究では、技能実習生の日本語学習に注目するので、送り出し機関は技能実習生の出
国前の講習や準備を行い、技能実習生を送り出す機関を意味する。
監理団体
技能実習法の第五条第二項において、監理団体は、「技能実習の適正な実施及び技能実習生の
保護について重要な役割を果たすものであることを自覚し、実習監理の責任を適切に果たすとと
もに、国及び地方公共団体が講ずる施策に協力しなければならない」と規定されている。本研究
では、監理団体は在日している技能実習生を管理し、受け入れ企業に配属される前の講習を行う
組織として扱う。
監理団体は二つの種類があり、「一般監理事業」の監理団体と「特定監理事業」の監理団体で
ある。「一般監理事業」の監理団体は、第一号、第二号、第三号団体監理型技能実習を行うこと
ができる。一方、「特定監理事業」の監理団体は、第一号と第二号のみを行うことができる。簡
単というと、「一般監理事業」の監理団体の技能実習生は「技能実習第 3 号ロ」(技能実習の 45 年目の在留資格)まで更新できるが、「特定監理事業」の監理団体の技能実習生は「技能実習
第 2 号ロ」(技能実習の 2-3 年目の在留資格)まで更新できる。外国人技能実習機構(以下、
OTIT)の統計によると、2020 年 4 月 15 日の時点で、「一般監理事業」の監理団体の数は 1464 機
関であり、「特定監理事業」の監理団体の数は 1492 機関である。
受け入れ企業
本研究における「受け入れ企業」とは、技能実習法でいう「実習実施者」を指す。技能実習法
の第五条第一項によると、実習実施者は「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護について
技能実習を行わせる者としての責任を自覚し」、「技能実習を行わせる環境の整備に努めるとと
もに、国及び地方公共団体が講ずる施策に協力しなければならない」という責務がある。但し、
受け入れ企業に配属されて技能実習を行っている期間も、技能実習生の管理責任は監理団体にあ
る。
10
2.2.技能実習制度の変遷
法務省・厚生労働省編の「技能実習制度運用要領~関係者の皆さまへ~」9によると、技能実習
制度は「我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、その開
発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度」と定義されている。
現在の技能実習制度ができるまで、日本における外国人労働者の受け入れは様々な変遷をたどっ
てきた。技能実習制度の変遷については、以下の四つの段階に分けられる。
1)「研修」制度の導入
1960 年代から、海外進出のために、大手製造業は外国人研修生の受け入れを始めた。当時、研
修生の受け入れに関連する機関は主に国際協力機構(以下、JICA)や海外産業人材育成協会(以
下、AOTS)などの政府機関や地方自治体の公的機関であった。それに加えて、第二次インドシナ
戦争で 1975 年に難民問題が発生し、東南アジアからの外国人の受け入れが増えた。そのため、
1981 年の入管法改正では、「研修」という新しい在留資格が創設された。しかし、「研修」とい
う名称ではなく、「4-1-6-2」の番号で入管局に管理されていた。その当時、留学の在留資格の
番号が「4-1-6」なので、研修は留学の一つの種類として扱われていたのではないかという意見
もある(石川、2006)。
2)労働者不足の時期
1980 年代から、バブル経済の影響下日本では労働力不足という問題がだんだん深刻になってい
た。人材不足が社会問題になったため、日本はタイやフィリピンなどの発展途上国からの労働者
の調達について考え始め、「その強大な労働需要への供給源として、雇用主と世論は外国人労働
者に注目した」(佐野、2002:1)。当時、第二次のオイルショックで中東アラブ石油出産国へ
の出稼ぎ労働者が減っていたので、バングラディッシュやパキスタンなどの国からの労働者も日
本に流入した。1989 年の入管法改正では、「4-1-6-2」の番号ではなく、「研修」という在留資
格の名称が正式に創設された。同時に、在留期間を 1 年と定めた。1990 年には、研修制度改正に
より、企業単独型だけではなく、団体監理型でも研修生の受け入れが可能になり、日本に入国す
9
法 務 省 ・ 厚 生 労 働 省 編 ( 2017 ) 「 技 能 実 習 制 度 運 用 要 領 ~ 関 係 者 の 皆 さ ま へ ~ 」
年 3 月 6 日)
11
るもう一つの新しい道が設立された。同年、法務省入国管理局の統計 10によると、外国人登録者
数は歴史上初めて 100 万人を超え、107 万人に達し、前年に比べ 26.4%増加した。
3)技能実習制度の誕生
上記の外国人の増加に対して、1991 年には、財団法人国際研修協力機構(JITCO)が新設され
た。JITCO の目的は法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の五省共管により研修生の円滑
な運営や適正な拡大を実施することであった。バブル経済の崩壊後からの人材不足がまだ解消さ
れない状況には、外国人研修生を受け入れるのは一つの解決策であった。1993 年に法務省により
技能実習制度が導入されてから、研修期間の後、研修生が技能実習としてもう 1 年日本に滞在す
ることが可能になった。但し、その当時、「技能実習」という在留資格がまだ定められておらず、
研修期間の 1 年間の延長の際、「特定活動」という在留資格で行われた。移行対象職種はわずか
17 職種であった。1997 年には、その期間が 1 年から 2 年に延長された。1999 年には、労働者派
遣法改正により、研修生の受け入れの職種が増加し、移行対象職種が 55 種に拡大された。同年
の 8 月に、第 9 次雇用対策基本計画11が閣議決定され、外国人労働者対策に関して「専門的、技
術的分野の外国人労働者の積極的な受入を推進する」と述べられた。法務省の統計12によると、
2000 年の時点まで、日本に滞在していた研修生の数は 3 万 6 人に達し、過去最大であった。その
中で、最も多いのは中国であり、61.2%を占めていた。次はインドネシア(12.4%)、フィリピ
ン(7.6%)、ベトナム(6.3%)などの東南アジアの国であった。
4)技能実習制度の急速な発展
21 世紀から、「技能実習」という在留資格について、さまざまな変化が見られた。2009 年に
は、入管法改正により、「技能実習 1 号」と「技能実習 2 号」という二つの新しい在留資格が定
10
法務省入国管理局(2001)「平成 12 年末現在における外国人登録者統計についてー外国人登録者総
数の推移」 />覧日:2020 年 1 月 14 日)
11
閣
議
決
定
(
1999
)
「
第
9
次
雇
用
対
策
基
本
計
画
」
年 1 月 14 日)
12
法務省入国管理局(2001)「平成 12 年末現在における外国人登録者統計についてー「研修」の外国
人登録者数の推移」 />(最終閲覧日:2020 年 1 月 14 日)
12
められ、技能実習生の労働者性が認められた。JITCO によると、技能実習 1 号は入国後 1 年目の
技能等を修得する活動のための在留資格であり、技能実習 2 号は入国後 2、3 年目の技能等に習
熟するための活動のための在留資格である。但し、在留資格が正式に定められたが、技能実習生
に関する人権問題がまだ存在している。例えば、賃金未払いやパスポートの取り上げなどであっ
た。そのため、2016 年には、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法
律」(技能実習法)が定められた。簡単というと、技能実習法は、技能実習制度のさまざまな問
題に対する対応策であり、技能実習生の保護に関する法律である。同年には、「技能実習 3 号」
という新しい在留資格が新設され、技能実習の期間を 3 年から 5 年に延長することが可能になっ
た。2017 年 1 月 25 日に、技能実習の適正な実施および技能実習生の保護のため、新しい「外国
人技能実習機構」(OTIT)が設立された。OTIT の主な業務13は、「技能実習計画の認定、実習実
施者・監理団体への報告要求、実地検査、実習実施者の届出の受理、監理団体の許可に関する調
査、技能実習生に対する相談・援助、技能実習生に対する転籍の支援、技能実習に関する調査・
研究」などである。2020 年 4 月 1 日に、JITCO の法人名称を「国際人材協力機構」に変更し、英
語表記についても、従来の「Japan International Training Cooperation Organization」から
「Japan International Trainee & Skilled Worker Cooperation Organization」に変更した。
技能実習の移行対象職種の数がだんだん増加し、現在は 81 職業 145 作業になっている14。
以上の技能実習制度の変遷から、技能実習生の受け入れのシステムが成立された各段階が分か
った。しかし、実際には、技能実習制度は技能移転システムではなく、労働者を受け入れシステ
ムではないかという意見もある。技能実習制度の本質について、佐野(2002)は、「あくまでも
技術移転システムか、やはり労働力需給システムか」の疑問があり、「「団体監理型」受け入れ
の需給調整システムは、日本とブラジル間の労働力需給システムとほとんど同じ構造を有してい
ること」(佐野、2002:14)と述べている。技能実習制度は労働力需給システムと認められる場
合、技能実習生は労働者の一つではないだろうか。すなわち、技能実習生の本当の来日目的は技
術を勉強することか、仕事をすることか明確にする必要がある。これは技能実習生の日本語学習
に影響を与えると筆者は考える。
13
14
「外国人技能実習機構とは」 年 1 月 14 日)
外 国 人 技 能 実 習 機 構 ( 2019 ) 「 技 能 実 習 制 度 移 行 対 象 職 種 ・ 作 業 一 覧 」
年 1 月 14 日)
13
2.3.ベトナム人技能実習生の送り出しの現状
前述の「2.2. 技能実習制度の変遷」においては、日本の技能実習制度と労働力需給システム
の区別という問題が先行研究で述べられた。実際、技能実習生を送り出す側のベトナムでは、技
能実習生を労働者として扱っていることは珍しくない。ベトナムにおいて、送り出し機関は労働
者の海外派遣を行う事業者として認知され、労働・傷病兵・社会省海外労働管理局から直接指導
を受けている。このようなベトナム人技能実習生の送り出しの現状を把握するために、ベトナム
の労働力輸出から検討する必要がある。
1980 年代から、外国企業の労働力のニーズに応え、ベトナムでは労働力輸出の活動が始めてい
た。当時、労働者が働きに行く国はほとんど共産主義国であったが、1986 年の政策的変更「ドイ
モイ」以降、労働力の輸出がより多くの市場へ拡大されていた。今日も労働力輸出はベトナムに
多くの外貨獲得をもたらしており、優先発展の経済活動の一つだと見なされている。ベトナム海
外労働者派遣協会(以下、VAMAS)15によると、2019 年の 11 月までは、海外に送り出したベトナ
ム人労働者数は 13 万 2802 人で、2018 年に比べ 1.32%増加した。とりわけ、北東アジアに送り
出した労働者数は 12 万 8685 人であり、全体の 96.9%を占めていた。中国や韓国などの北東アジ
ア諸国の中で、日本に送り出した労働者が最も多く、7 万 7156 人であった。次いで、台湾が 4 万
9980 人であったが、前年に比べ 12.7%減尐していた。すなわち、現在日本はベトナム最大の労
働力輸出の市場であると言える。
上記の統計には、技能実習生が含まれている。新聞の記事や政府の資料などにも、「技能実習
生」と「労働者」という言葉は、しばしば同じ意味に使用されている。例えば、2019 年 11 月に、
労働・傷病兵・社会省は JITCO との間での特定技能と技能実習に関する覚書を調印した記事16で
は、「技能実習生」と「労働者」は同義語として交互に執筆された。とりわけ、覚書調印式にお
いて、ベトナムのレ・タン・ズン労働・傷病兵・社会省の副大臣は、「現在、日本はベトナムが
労働者を送り出している四つの主要な労働市場の一つである」と述べている。すなわち、ベトナ
ムでは、技能実習生は労働者の一つの種類だと見なされているではないだろうか。
15
/>
ngoai-trong-11-thang-nam-2019_t221c657n44768(最終閲覧日:2020 年 3 月 17 日)
16
/>
2019112512154721.htm(最終閲覧日:2020 年 3 月 18 日)
14
2017 年 6 月 6 日に、ベトナムと日本との間の技能実習に関する二国間取決めが締結された。そ
れに伴い、ベトナムの送り出し機関の数が増加している。JITCO17によると、2020 年 4 月 1 日の時
点で、ベトナムの送り出し機関の数は 351 機関で、二国間取り決めを締結している国では最も多
い(表 2-1)。
表2-1:国別の送り出し機関の数
国名
送り出し機関数
ベトナム
351
フィリピン
275
中国
260
ミャンマー
243
インドネシア
222
ネパール
205
カンボジア
86
モンゴル
80
スリランカ
62
タイ
56
ウズベキスタン
53
インド
27
バングラデシュ
27
ラオス
17
パキスタン
2
(出典:「送出し国・送出機関情報」 />
ベトナム技能実習生の受け入れと講習の流れについて、技能実習生の送り出しの流れは以下の
表 2-2 である。まず、送り出し機関は技能実習を希望するベトナム人を募集して、彼らの健康診
断や経歴のチェックを行う。次に、技能実習の面接を準備するための講習を行う。この面接は、
送り出し機関で行われるが、面接で質問するのは監理団体と受け入れ企業である。技能実習の面
接に合格したあと、技能実習生に出国前の講習を行う。来日後、技能実習生は監理団体の施設で
1 ヶ月間講習を受け、そして受け入れ企業に配属され、技能実習を開始する。最短 3 年、最長で
5 年の技能実習を経て、技能実習生は帰国する。
表2-2:技能実習生の送り出しの流れ
17
「送出し国・送出機関情報」 />
年 5 月 10 日)
15
ステップ
内容
担当者
1
技能実習の希望者の募集
送り出し機関
2
健康診断、経歴のチェック
送り出し機関
3
面接前の講習
送り出し機関
4
技能実習の面接
監理団体、受け入れ企業
5
出国前の講習
送り出し機関
6
出国
送り出し機関
7
来日後の講習
監理団体
8
受け入れ企業の配属
監理団体、受け入れ企業
9
技能実習
受け入れ企業
10
帰国
監理団体
以上が、ベトナムから日本に技能実習生を送り出す現状と送り出しの概要である。ベトナムで
は、技能実習生を労働者として扱うことによって、勉強より仕事のほうが大事と考える技能実習
生が尐なくない。その考え方により、仕事ができれば、技術や日本語を勉強しなくていいと思う
技能実習生が多くなっている。そのため、技能実習生の日本語学習の質を上げるために、まず技
能実習生の自身が自分の来日の目的を正確に理解すべきだと考える。
2.4.技能実習生の日本語教育に関する先行研究
外国人技能実習生は、日本語教育の重要な対象の一つだと考える。日本の尐子高齢化の著しい
進行に伴い、技能実習生の数は毎年増加しており、それにより彼らに対する日本語学習に関する
活動を強化する必要が生じている。ある程度の日本語レベルがあれば、彼らの日本での生活はよ
り円滑になる。その上、生活や仕事が上手くできると、日本側の管理者や企業の利益にもなるだ
ろう。近年、技能実習生に関する研究の数が増加しているが、その中で、技能実習生の日本語学
習に関する研究はまだそれほど多くない。
まず、ベトナム人技能実習生を対象とする研究の中で、中川・神谷(2018)は、北海道におけ
る農業分野のベトナム人技能実習生 12 名の日本語学習について調査した。
調査結果によると、「来日目的と日本語学習意識」、「日本語学習環境の確保」、「事業主、
日本人スタッフとの信頼関係」、「地域社会、職場環境への適応」、「日本語学習上の困難点―
16
技能実習生の立場から」(中川・神谷、2018:90)の 5 つの要因がベトナム人技能実習生の日本
語学習意識に影響を与えるということが明らかになった。とりわけ、第一の「来日目的と日本語
学習意識」という要因では、ベトナム人技能実習生の来日目的について、中川・神谷(2018)は
「家族への経済支援が第一義的な目的ではなく、将来の実習生自身の生活向上を見据え日本語学
習の必要性を強く認識していることがうかがえる」(中川・神谷、2018:90)と述べている。す
なわち、ベトナム人技能実習生は、日本でお金を稼ぐことが大事だと思いながら、日本語学習の
必要性を理解している。
これらの調査結果に基づいて、中川・神谷が技能実習生の日本語学習について、地方自治体、
地方ボランティア団体などの地域日本語教育が抱える問題について述べた。例えば、「開催され
る日本語教室での活動が,市民交流,生活相談など日本語教育以外のもの,個別の日本語指導な
ど,活動形態が多様」や「日本語教育の専門性を有する「教室コーディネータ」が不足しており,
配置されていない地域が多い」(中川・神谷、2018:95)など。但し、中川・神谷の研究は、技
能実習生の日本語学習に対して、地方自治体の役割を中心に問題点や提言を述べており、技能実
習生の配属先の役割は射程外であった。
また、技能実習生の来日後および来日前の日本語学習に関する問題について、馮(2013)は、
中国人技能実習生を対象とする調査を行い、いくつかの結果を述べた。
馮(2013)は、技能実習生の来日前の日本語学習に関しては、技能実習生の出身地によって、
日本語学習に対する考えが違うということを指摘する。例えば、大連市あるいは威海市では、在
日技能実習生や帰国した技能実習生の数が多く、技能実習生の日中ネットワークがすでに存在し
ているので、来日の不安が尐なかった。したがって、それらの地域の技能実習生について、馮
(2013)は、「「日本語がわからなくても、日本で生活できる」という考え方が広がり、日本語
能力の欠如が日本での生活のハンディキャップであることを認識できない」(馮、2013:159)
と述べている。
一方、技能実習に関する知識や情報がまだ尐ない場所は、技能実習のことについて不安が多い。
そのため、「一日も早く来日後の生活に適応できるように、積極的に日本語を覚えようとする」
(馮、2013:159)という考えが一般である。積極的に日本語を勉強するから、ある程度日本語
能力を達し、元々不安が多かった彼らは、日系企業の通訳者・翻訳者などの将来のキャリアアッ
プを期待するようになる。本研究では、第 4 章の 4.4.1.「半構造化インタビュー」の中で、ベト
ナム人技能実習生の出身地と来日の目的に関する考察も触れて述べることができた。
17